ご機嫌クラッチ」考
多くの方々から何故サイモンは2500Cを作らないのかという旨の質問を受けます。
色々とさしさわりがあるので、その質問にはここではお答えしないでおきましよう。
今年の春、アメリカの業者が特注したアンバサダー2500CDL・2500CDLティールの販売に関わる機会に面した。 長いこと待った甲斐あって、やっと製品が入荷して見ると、クラッチが大変に硬く(重く)、時折それはつかえてしまい、よほど力を加えないことにはクラッチが切れなかった。 又、クラッチをつなぐ際にはパッチンと大きな音がした。 入荷した個体のほとんどがこれらの現象を示していた。 その時、2007年だったろうか、2500Cモデルが復刻された時に日本の店舗で見せて貰ったもののことが彷彿した。 そうだった、あの時のクラッチも硬かった。
皆さんはあれらのクラッチで満足されているのだろうか? そこで僕は今回2500CDLの販売協力をするに際して、各位と連絡を取って見た。 調査して見ると、その評価は思っていたよりも厳しいもとして伝わって来た。 中には「復刻品を買ったけれど、(クラッチが硬くて)使えないからそのまま寝かせています。」と言う方さえいた。
ここから僕の2500C(その他の類似機種は割愛して2500Cとだけ呼ぶことにする)の再研究は始まった。 実際に70年代のものも調べてみたが、僕の所有する70年代のオリジナル2点のように、オリジナル品にもクラッチの状態が満足でないものがあることが判った。
僕は結構2500C用のオリジナル・デッドス・トック内部パーツを持っている。 それらを今回の2500CDLに移植して見ることから調査を始めて見た。 調査では一つだけパーツを入れ替えては組み立て直すという作業を繰り返すことにした。 そうしなければ、どのパーツ(もしくはどのパーツ群)が問題を起こしているのかが判らないからである。 調査と研究には日時を要した。 しかしこのパーツ入れ替え作業では、僕は2500CDLのクラッチ問題を完全に直し得なかった。 この間グリースを入れ替えると音が静かになったとか、サイドプレート側のハウジング内をサンドペーパーでクリーニングすると良いと言うような情報が店舗さんやら、スウェーデンの専門機関からも寄せられて来た。 シカゴにある老舗修理店にも立ち寄って見て、問題を提起して見たが、彼らとしてもパーツを入れ替えることや、潤滑財を施すことでは問題を一切解決出来得なかった。
研究の2段階目は現象面からではなく、力学面と人間工学面から構造的な問題の原因究明となった。 ここまで来ると、天才技師でアンバサダーの生みの親であるオーケ・ミュールヴァルが設計デザインしたものを再分析・再評価することになる。 それは尊敬する彼に対する僕の大きな挑戦でもあった。
そして長い日々を経て、研究の結果が出た。 ついに僕は力学上、クラッチを改善できる案を見つけ出したのだ。 そこから次の作業は僕の発見した問題点を現存の構造内でテストすることだ。 その時点でいくつかパーツのプロトタイプを作り出し、それを基礎にして既存するクラッチ問題を改善することが出来るかという研究に移った。
プロトタイプの作成には時間が掛かった。 何度も何度も複数群のパーツを組み合わせては、試行錯誤を繰り返した。 そしてついに最終プロトができた。 それらを導入して組み立て直したテスト結果は大変良好なものだった。
こうして2ヶ月に渡る研究の結果「ご機嫌クラッチ」はついに誕生した。
「ご機嫌クラッチ」は自分で分解メインテナンスを行う方々は15分ほどで簡単に導入することができます。 入れ替えるパーツはたった3つだけです。小型ドライバーの他には必要な工具はありません。しかもオリジナルが持つ機能および外見をまったく損ないません。
「ご機嫌クラッチ」は当社HPから直接お買い求め頂けます他、まもなく最寄のアンバサダー取り扱い店舗さんでもお求め頂けるようになります。
「ご機嫌クラッチ」の軽快なクラッチ感覚で、真のクラシック・アンバサダー2500Cが如何にあるべきか、今初めて、ABUが生んだ小さな巨人の真価を発見してください。
勿論「ご機嫌クラッチ」は1500C、2501Cの他、2600Cなどのモデルにも適用できます。
注) 「ご機嫌クラッチ」は必ずしも万能薬ではありません。クラッチの問題は複合したパーツの問題や細かな偏差が関係していることが往々にしてあります。スプリング10245の入れ替え用に際しては。「ご機嫌クラッチ」では厳選したワイヤーで作ってありますが、お手元のリールについているクラッチ盤の状態やクラッチ盤に搭載されているパーツの状態によっては、10245には太いワイヤーのスプリングを使ったままでなければ、クラッチノブが低位置に戻って来ない不都合が生じる場合があります。 そのような状態のクラッチ盤がついた個体においては、残念ながらパッチンという大きな音を取り除くことが出来ません。 この問題の基本的な原因をもたらすものはプラスチック・クラッチ・ボタンの10369にあります。 1975年モデル(75・03・00)の2500Cにはクラッチ・ボタンに10253が使われています。 これが次のモデルから10369に変わります。
10369を搭載したクラッチにプロトで作った柔らかで快いスプリングを搭載すると2台に1台はクラッチ・ボタンは戻って来ない問題を起こします。 そこでABUは強いスプリングを搭載することにしてこの問題の解決を行うことになりました。 これがパッチン音の出る原因です。 柔らかなスプリングではクラッチ・ボタンが戻らない際の解決方法は2つあります。
一つは10369を10253に取り替えることです。
さあ、これで楽しい2500Cを楽しみましょう。 |